2014/08/06

風立ちぬ

 
 ブルーレイ化されたので観た。以前、台湾の映画館で一度観た事がある。台湾人の観客は日本人と違いストレートに反応する。風立ちぬでは声を出して笑うようなシーンは殆どないが、台湾の映画館では子供時代に主人公の二郎がいじめっ子を一本背負追いするシーンでは笑いとおぉと言う歓声があがり、また西村雅彦演じるの黒川が出るたびに大爆笑していたのが印象的だった。
  私は基本的にジブリ作品に世間一般的な基準から言えば否定的だ。小学生の時は、録画したナウシカを何度も観たが、ストーリーは理解しておらず、主人公が男でもっとアクションシーンがあれば面白いのにと思っていた。ラピュタはそれなりに満足したがやはりアクションが足りない、また大の男たちが少女に惚れるという子供だましが気に食わなかった。トトロも観たが内容が幼すぎ、一回しか見なかった。魔女の宅急便は何の印象も残っていない。紅の豚は機関銃の実弾で撃ち合ってるのに、相手を殺さない主義という子供だましのような偽善がまるで理解できず、ハッキリと宮﨑駿嫌いになった。もののけ姫は映画館で観たが、その後の作品はテレビでやってれば見るくらいのスタンスになり、やがて観るのをやめた。
  しかし風立ちぬは相当、賛否両論で話題になり、庵野秀明が声をやるというので、映画館何年かぶりに映画館に観に行った。そして初めて宮﨑駿の映画で感動して泣いた。初めて何度か観る価値がある映画だと感じた。そして今回観たわけだ。
  この映画は相当変わっている。これは宮﨑駿以外には作れない映画だ。宣伝では実在の人物を描いたとうたっているが、本当は二人の実在の人間をモチーフに新しいキャラクターを作り出している。
  ストーリーもその二人のモチーフとなった人間の人生が交じり合っている。だが闘病モノの恋愛映画でもなく、ゼロ戦開発物語でもない。こんな映画みたことない。劇中の登場人物二人の言葉を借りて、強いて言えば、薄情者でエゴイストの男の物語。
  今回、観てやっと気がついたが、主人公が妻に対し、愛していると言わない。この時代の男は言わないという感じではない。綺麗だね、大好きとは何回か言うが、愛しているとは言わない。妻も言わない。妻にとってもこの結婚生活は冥土の土産的な思い出づくりなのだろう。
  軽井沢で白馬の王子様に再開し恋愛に発展した時は、きっと運命を感じたに違いない。もうすぐ死ぬような自分なのに、男は仕事の次くらいの順位ではあるが自分のことを好いてくれ、しかも結婚もしてくれる。妻は聡明なので、これが山の恋愛だとわかっていた、山を降りれば忘れるような。主人公は良い奴だが、自分を愛してくれてはいない、本当に愛していれば病院で妻を支えていただろう。吐血した時には駆けつけたが、仕事があるのですぐに去っていく。禁煙ファシスト共に批判された妻の前でタバコを吸うシーンは必要だった。主人公は薄情なエゴイストだということがよく分かる。悪いやつではないが、天才なんてのはこんなもんなんだろう。
 冥土の土産なので、傷を付けたくない。引き際も鮮やかだ。妻はすぐに去る。  初めてこの映画を観た時、どこで終わるのかと思ったが、最高のタイミングで終わったと思う。唐突かもしれないが、あのタイミングしかない。余韻は観客に任さればいい。  多分、また観たくなる。

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