2014/08/08

もらとりあむタマ子


【物語】※ネタバレあり
 タマ子はスポーツ用品店を自営する父の実家に戻り二人で暮らしている。何をするわけでもなく、漫画を読み、父の作る食事を食べて、ニュースを見て日本はダメだと呟く、そんな毎日をただ過ごしている。


 父に就職活動をしろと言われて、今はその時ではないと切れるタマ子。優しい父に見守られながらその時を待つように過ごすタマ子。
 ある日、父は親戚から独り身の女性を紹介され、二人は交際しているようだ。女性が気になり会いに行くタマ子。女性と父の話をするタマ子。タマ子は自分に出て行けと言えない父は父親失格だと話す。最初は女性に反発を持っていたタマ子だが二人は打ち解け、交際を応援する気になる。
 冬が過ぎ、春が過ぎ、夏になった。父はある日、タマ子に夏が終わったら実家を出て行くように言う。タマ子は友達になった近所の中学生の男の子夏が終わったら出て行く事を告げる。夏はまだ終わらないが、いつか終わる。

【点数】
80点(百点満点)

【感想】※ネタバレあり
モラトリアムというのは、元々は遅延というような意味だが、後に心理学者が次のような概念をモラトリアムとした。それは大人になる為に必要な準備期間というものだ。つまりそのままの題名だ。
 もらとりあむタマ子は面白い。本当に面白い。
 最初から最後までずっと面白く観てられる。しかし劇中でほぼ何の事件も起こらない、徹底的な日常だけ、だが面白い。(アクションの連続でもつまらない映画だってあるのに)
 徹底的なこの日常が凄い、リアリティが凄い。例えば始まってすぐにタマ子と顔見知りの客が来る。そしてタマ子と顔を合わせておばさんが「帰ってきてたの、久しぶりねぇ」「あっどうも」といいうような感じになるのだが、何年かぶりにほぼ忘れてたような年上の知り合いと会った時の距離感がつかめずどうリアクションしていいのか分からない感じとか凄くリアルでいい。そんなリアリティの積み重ねでこの映画は構成されている。
 登場人物もかなり少ない、ほぼタマ子と父だけ。たまにタマ子と友達の中学生の男子と親戚のおばさんくらい。これでおもしろいのは凄い。凄い。
 前田敦子はかなり良かった。もらとりあむタマ子そのものだった。女優になるとニュースになったときにネットであの顔でと叩けれていたが、美人だけが女優になれるわけじゃない。絶世の美女ではないが、ブサイクでもない、あの彼女の容姿は映画女優に向いてると思う。
 父親役の康すおんだが、(一瞬、尾藤イサオかともおもったが)すごく良い。前田敦子と全然似てないのだが最後には親子にしか見えなくなる。(ウィキペディアで過去の出演作を調べてみたら、金融腐蝕列島の株主189番役と出てきた。その文字を観た瞬間思い出した。最後の方に少ししか出ていないが一気に思い出した。確かに出ていた、よっぽど印象を残す良い演技をしていたんだろう)
 この映画には最近の映画にありがちな、全部セリフで説明するというのがない。それがいい。例えばタマ子が昔の仲がいい友達と出会う。タマ子はニート状態なので、恐らく恥ずかしくて会いたくない。終盤、タマ子がたまたま駅の東京行きのホームで電車を待っている友達を見かけるが、友達は泣き出しそうな様子だ。お互い気づいて手を振り合い、別れる。この友達に何があったのかわからない。
 このシーンの印象や解釈は観た人間の数だけあるだろう。これくらいの幅を持たす勇気が、つまらない映画を量産してる監督たちには必要だ。
 無駄シーンが無い。時間は78分と短いが、あっけなく終わるような感じはない。映画の密度が濃いからだ。つまらない映画は短くてもひどく長く感じるし、実際に長くてつまらない映画は無限地獄だ。
 ほぼ何も起きない映画だが、映画の中の人々は変化してる。例えば中学生とタマ子の関係。最初は、男子にとってちょっと憧れのお姉さんだが、だんだん仲良くなっていき、関係が変化していく。タマ子は子分的な扱いだが、男子は友達がいない可哀相な人なのでしょうがなく付き合ってやってるというスタンスになり、タマ子のことも呼び捨てだ。この変化が面白い、爆笑する。
 最終的にタマ子も少し成長した描写が描かれ、映画は終わる。多少唐突かもしれないが良いタイミングで終わると思う。タマ子が出て行く姿は描かれないが、それを観客の余韻に任せるのは、良い。非常に良い。
 最近、つまらない監督が非常に多く、邦画に絶望を感じることが多い昨今、これは光だ。まだまだ終わっちゃいない。

※もし今、この映画を観るかどうか迷っているなら下の動画を見てほしい。これを観てフフっとなれば観た方がいい。




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