2014/08/23

観るべき海外ドラマ 「ブレイキング・バッド/Breaking Bad」


【物語】
 ウォルターは50歳、ニューメキシコの地方都市の高校で科学教師をしている。

 昔は、違った。化学者として有名な研究所に勤めていた。恋人と親友の共同研究者と若い時にもめ、彼らと決別した。恋人と親友は結婚し、今やその研究で大金持ちだ。
 だがウォルターは安月給の教師になり、洗車場でバイトし生徒の車を洗っている。そでもウォルターは幸せだった。家族がいるからだ、10歳下の美しい妻と16歳の息子、息子は軽い脳性麻痺を患っているが聡明で優しい少年だ。それに現在、妻は妊娠している。また愛する家族が増えるのだ。
 ある日、ウォルターは倒れ救急車で運ばれる。そして医者に肺がんで末期だと告げられる。化学療法が上手く効いても、生きられるのはせいぜい2年だ。
 ウォルターは義弟のハンクの言葉を思い出した。ハンクはDEA(麻薬取締局)の捜査官だ。今度良ければガサ入れを見学してみないか?
 ウォルターはハンクのガサ入れを見学し、メス(覚醒剤)の製造現場を実際に見た。ウォルターはそのチンケな設備を見て思った、私なら市場に出回っているメスの何倍もの高純度なものを作ることが出来ると。
 だが売り方が分からない。今まで全く犯罪とは無縁に暮らしてきたのだ。そこで元高校の教え子でいまはチンケな売人をやっているジェシーをDEAに通報すると脅しパートーナーとして引き込む。
 最初はいやいやだったジェシーだが、ウォルターの作った高純度のメスをみて考えが変わる。こんな高純度のメスはかって市場に出回ったことはない。
 しがない科学教師のオッサンとチンケな売人の若僧の二人は、かってない高純度のメスを武器に、ドラッグビジネスに乗り出した。高純度のメスにジャンキー共は群がり、金は舞い込んできたが、危険な男たちもその金につられてやって来る。やって来なくても商売を拡張するためには危険な男たちに近づかなければならない時もある。 ウォルターとジェシーは、おっかなびっくり危険な商売に翻弄される。
 そしてウォルターは高純度のメスをさばく謎の売人ハイゼンベルクとして、犯罪者の成功の階段を駆け上がっていく。

 Breaking Badというのは道を踏み外すというような意味のスラングだ。ウォルターという善人が道を踏み外し、家族のために覚醒剤の密造と密売を始める。
 力強い単純なプロットの物語だ。だが単純ではない。善人が悪の道に落ちながら、同時に伝説的な犯罪者に成長していくという複雑な物語だ。
 これがとにかく面白い。面白い。各界の多くの著名人が絶賛し、エミー賞を始め色々な賞をとりまくっている。ココらへんはググればすぐに出てくるのでいちいち書かない。下記に私がブレイキング・バッドが面白い理由を書いていく。
 
最強のバディフィルム
 しがない化学教師のオッサンとチンケな売人の若僧のコンビ。二人は全くウマが合わない。しょっちゅう大人げなく罵り合い、殺し合い一歩手前の殴り合いの喧嘩をする。まったく全然、相棒感がない。これは当初、ジェシーが早々と死ぬ予定だったからだ。だがSeason1の途中にハリウッドで脚本家たちのストライキが起こり、Season1は予定より短い話数で終了した。ジェシーを殺す時間がなくなり、続投となった。そして製作者はジェシーの魅力に気がついたジェシーはレギュラーとなる。
 二人は危ない橋を渡っていくうちに、段々と友情が芽生えていく。この過程が面白い。シリーズが進むにつれ、それが強固に壊れる事が考えられないようなものにまで成長していく。
 そしてさらに進んでいくと、それが簡単に壊れてしまうような状況に追い込まれていく。人間は物が壊れるさまを観るのが楽しいもんだ。

鏡合わせの多面的な物語
 これは、ウォルターに限って言えば、善人が道を踏み外す堕落の物語であり、ある男が伝説の犯罪者に成長していく物語であり、善人が破滅していく物語でもあり、犯罪者としてのサクセスストーリーでもある。
 そして更に他の魅力的なキャラクターたちの様々な物語だ。ウォルターの義弟でDEAの捜査官のハンクで言えば、これは高純度メスをさばく幻のような謎の売人ハイゼンベルクの捜査の物語でもあるし、ほかのキャラクターたちで言えば、抗争と復讐の物語でもある。
 それが渾然となり、最高の物語となっている。
 最近はテレビドラマも多くの視聴者に対し多少、難解になったとしても作品のクオリティの追求を優先する風潮があるらしい。ブレイキング・バッドはその最たるものだ。

秘密
 ウォルターはもちろん自分がメスの密造をやってることを家族に隠している。当然だが視聴者は知っている。裏社会でウォルターのもう一つの名前ハイゼンベルクが伝説的な犯罪者としてドンドンと大きくなっていく、だが本人と相棒のジェシーくらいしかハイゼンベルクの本当の姿が(しばらくするとどちらが本当かわからなくなるが)しがない科学教師であることを知らない。当然だが視聴者は知っている。
 単純にこの秘密を知っている優越感、水戸黄門を見ててるのと同じ優越感は、単純に面白いのだ。そしてそれが2つある。
 そしてその秘密が暴かれそうになる、綱渡りのような展開が、一級のシナリオで展開する。

最高の瞬間
 ブレイキング・バッドはSeason5で終了した。合計62エピソードで終了した。人気はまだまだ絶頂といっても過言じゃない。シリーズを重ねるごとにその評価は上がっており、まだ上がっていたのだ。だが終わったのだ。
 アメリカのドラマファンはよくわかってると思うが、アメリカのドラマは人気がなくなるまで作って作って作りまくる。ネタがつき始めるシーズン4か5くらいから、ファンは変化球を楽しみ始める。そして観るのをやめるファンが出始める。変化球が尽きても、まだ続行する人気があれば、原点回帰したり、やっぱり変化球を投げる。ココらへんまでついてくるファンはもう面白いかどうかは重要じゃない、死に水をとってやろうという気持ちだ。
 だがブレイキング・バッドはクオリティを重視しSeason5でのフィーナーレを決定した。末期ガンの主人公が長寿テレビドラマのシリーズをやるなんて、それはジョークでしかない。
 だから視聴者は最高の瞬間に物語が終わるのを観ることが出来るのだ。これはアメリカのドラマではかなり幸運なことだ。最高の瞬間にイケるんだ。これが私が観るべきドラマにブレイキング・バッドを選んだ最も大きな理由だ。

関連記事
i'm the one who knocks!!! ―ウォルターホワイトが殺した人々―